ARTWORK

宮崎夏次系さんのこと

若林が「WIRED』時代における、
最もスリリングな仕事相手」と
敬愛・賛辞を惜しまない、
漫画家の宮崎夏次系さん。
さよなら未来』においても
カバーイラストと「あとがき」を依頼した、
その経緯とは。

TEXT BY KEI WAKABAYASHI
ILLUSTRATION BY NATSUJIKEI MIYAZAKI

2018.04.19 THU

夏次系先生との最初のお仕事は、2014年の6月に刊行した「コーヒーとチョコレート」の特集号に掲載したシンギュラリティをテーマにした企画でした。その日コンピューターはぼくらを超えて神さまになった 〜宇宙物理学者・松田卓也博士と『2045年問題』を考える」という記事のイラストだったのですが上がってきたイラストが、最初まったく意味不明で驚いたことを覚えています。

アートディレクターの藤田裕美氏と、これ、ほんとに内容と合ってる?」と首をかしげあったほどで、あまりにもわからなくて、ご本人に「野暮とは知りつつ、ちょっといただいたイラストについて解説頂いていいですか?」と、メールでお願いしたほどでした。

そのイラストは、皿の上のばらの花がサランラップに覆われているというものだったのですが、ラップで覆われてるお皿の中に「背徳的な未来的な世界」を日頃感じていたそうで、その感覚が記事の主題となっていた松田卓也先生の著書の読後の感触に似ていた、というのが宮崎さんの答えでした。いまにして明かすと、本当は、未来都市に女子高生がいるような絵を実は期待していたのですが、その見事な裏切りに感心しつつも(イラストの締め切り前日まで、実は、宮崎先生も、そういう絵を提出するつもりだった、と件のお返事にはありました、どこかキツネにつままれたような気持ちで掲載したのでした。

ところが、1年くらいしてからふとした機会に見返したりしているうちに、じわっとその趣旨がわかって来るような気がして、少なくとも宮崎さんのイマジネーションは、こちらの1年先において未来を想像していたのだと、改めて驚いたのでした。そこにはロジックをいくら積み上げてもたどり着かない想像力のジャンプがあり、そうしたイマジネーションは、こちらが理屈っぽくああだこうだ論じている「未来」なんかを遠くに置き去りにして「それ自体がとっくに未来だわ」と感じさせてくれたのです。WIRED』がテーマとして抱えていた「未来」というお題と、クリエイティブとの関係性を明確に悟らせてくれたのがこの作品でした。

その後、宮崎さんは石川善樹さんの連載イラスト、そして最後の1年はエディターズ・レターの挿画などをお願いしたほか、J.J.エイブラムスをテーマにした記事や、量子」をテーマにしたウェブ企画などでご協力いただき、その都度、あのびっくりするようなジャンプを見せてくれたのでした。

宮崎さんとのお仕事は、基本、毎回非常に口数の少ないもので、こちらがざっくりとした企画趣旨をお伝えし、あとは掲載原稿を乱暴に放り投げて、あとは納品を待つ、というようなもので、メールでのやりとりは毎回ほんの数回だけでした。あまりやりとりをしないまま、宮崎さんの解釈に委ねるという方式で、そうであればこそ、イラストが上がってきたときの、驚きと喜びは、一層大きくなりました。

とはいえ、今回の『さよなら未来』はなにせ内容が多岐にわたるので、一個の記事に寄せるものとは異なるアプローチが必要となりました。なにせ自分自身、どこにフォーカスを定めるのか決めきれないほどでしたから、それなりにやりとりをすることとなりました。もちろん、膨大な量のゲラをお送りしたのですが、おそらく、それは逆効果だったかもしれず、むしろタイトルの「さよなら未来」ということばからのインスピレーションだけを頼りにイマジネーションを広げていただくほうがよさそうかと、途中で一度方針転換をしたりしました。

その際、自分が新しく準備していた会社が「ブラックスワン(黒鳥」というものになるであろうことなどもお伝えし、その命名のネタ元となった、ナシーム・ニコラス・タレブの著書『ブラック・スワン』の引用なども添えてお送りしたみたのです。カバーを飾るいくつかのイラストに、黒い鳥の影が飛んでいるのが見えるあれは、そのブラックスワンのはずです。

ちなみにお送りしたのは、こういう引用でした。

私たちは本当に計画が立てられない。未来の性質がわかっていないからだ。でも、これは必ずしも悪いことではない。自分のそういう限界を頭に入れつつ、計画を立てることはできるからだ。ただ、それにはガッツがいるのである」

巻末に収録した、海へ」と題された書き下ろし漫画で、最後に主人公が見せたのは、まさに、ここでいう「ガッツ」だったのかもしれません。

2018. 4. 16)